UX改善で売上が落ちるのはなぜか:ECで起きる「探索と購入のズレ」を考える

改善は必ずしも良い結果をもたらすわけではない。

これは直感に反しそうだが、実務では割と直面する事実だ。たとえば、UXを改善したら離脱率は減ったが売上が落ちた・・・・・・こういう状態。たしかに改善はされている。しかし、「そうじゃない」感。

UX改善は常に売上改善につながるわけではない。むしろ、正しい改善が売上を落とすことすらある。その理由はUIの良し悪しではなく、体験設計の対象を取り違えてしまうことに起因する。

今回取り扱うのはまさにこれで、「アパレルECアプリのUX改善を行ったら売上が下がった」という奇妙なケースだ。

広告が邪魔だから消した。導線が複雑だからシンプルにした。余白を多くして見やすくした・・・・・・にも関わらず、売上は落ちた。これは不具合に見えるが、実は妥当な結果であるとされる。

一般には「見やすく、分かりやすく、迷わない導線」は善だとされる。実際、それで満足度が上がることも多い。

しかしEC、特にアパレルのような商材では、それだけで売上が改善するとは限らない。なぜなら、ユーザーは常に「買うために来る」とは限らず、「出会うために来る」こともあるからだ。

ECに必要なのは最短導線ではない。時には寄り道が売上を作ることもある。

本記事はこの議題について述べていく。理想論ではなく実装を見越したケーススタディとして、考えていこう。

今回の案件について

まずは扱うケースについて。UXを改善したら売上が下がった、ということの前提情報を共有していく。

あるアパレルECサイトで、購入率向上を目的にUX改善を実施した。内容は以下。

  • デザインをシンプル化(白背景、余白多め)
  • 広告バナーを減らし、コンテンツを厳選
  • 購入導線をわかりやすく統一(ステップ数削減)

これにより、ユーザー満足度(アンケート)は上昇し、離脱率は減少した。しかし売上は15%減少、特に広告商品のクリックが激減した。

今回の施策自体は、それぞれ単体で見ると合理的だったにもかかわらず、結果として売上が下がった。となると個別施策の善悪ではなく、設計全体の前提に問題があると考えられる。

ではユーザーの評価は上がったのに売上が下がった場合、UX的にはどこを見直すべきだろうか?

満足度が上がったのに売れないのはなぜか

まず、これは必ずしもUXそのものの問題なのかどうかを考えていく。

むしろUX的には成功していると見なせる。アンケートの数値上昇と離脱率減少というのは間違いのない事実だ。

しかし、「だからこうなるはず」という予想と噛み合わないズレが停滞を生んでいる。じゃあ、これはなぜ起きたのか。

結論から言えば、「どの体験を改善したのかが曖昧なまま全体を同じ方向に最適化したこと」が問題だと考えられる。だから部分的に良くなり、改善しないところもある、ということになる。

では、ここでの誤った解釈をいくつか仕分けていきたい。

「満足度が上がったのに売れないのだから、アンケートは役に立たない」

これはやや性急な結論だ。そもそもアンケートは何を測っていたのか。これはおそらく「快適さ」だ。となると、この結果と離脱率の変化は施策のポジティブな影響を示している。

「もっとシンプル化が必要だった」

そうとは思えない。ただでさえクリック率などが減少しているのに、さらにシンプル化して状況が逆転することがあり得るだろうか?

「UXより商品力の問題だ」

これは一部あり得る。いくらUXを改善しても肝心の商品がダメならどうしようもないというのは事実だ。UXやUIはモノを届けるため、魅せるためにあり、その商品そのものの質を上げるわけではない。

ただ、今回は少し事情が違う。そもそも広告商品クリックが落ちているなら、商品そのものの質の強さは考慮に入れにくい。となると、接触機会の設計崩壊も疑うべきだ。

総合して考えると今回の問題は「体験の分離を行わずに最適化をしたせいで失った体験が存在するのではないか」・・・・・・こう仮説を立てるのが妥当に思える。

そもそもUX改善の意味とはなにか。それは摩擦の除去であり、理解負荷の低減だ。

それでも売れない理由はもはや見た目のキレイさとかではなく、別原因にあると考えられる。ここで、「購買動機」という別レイヤーの存在が浮かぶ。

つまるところ、今回の改善によって衝動性、限定性、比較誘導という行動トリガーが喪失した。ゆえに、UXは良くしたが、売る装置を壊した状態とも言える。

UX指標は改善しているが売上が低下しているズレを示した関係図

探索と購入はそもそも別の体験

体験の分離、これが今回の案件の本質だ。

まず、ECには少なくとも「探索」と「購入」の2つの体験がある。最初から買うものを決めてくる人もいるだろうが、見て回ることを目的とする人もいる。そのどちらもが重要だ。

しかし、この2つは目的も心理も必要な情報設計も異なる。購入体験だけを最大化すると探索が死ぬ一方で、探索を重視すると購入しづらくなる。

つまり、これらを同じUX原則で最適化してはならないのだ。今回の施策はこの分離を行わなかったがために奇妙な結果が生まれたのではないか。

では、探索UXと購入UXという、別軸の体験について考えてみよう。

探索UXとは、分岐が価値になる体験だ。

  • まだ欲しいものが固まっていない状態の体験
  • 目的:発見、比較、想起、気分の喚起
  • 必要:選択肢、偶発性、文脈、誘惑

購入UXとは、分岐がノイズになる体験だ。

  • すでに欲しいもの、あるいは候補が定まっている状態の体験
  • 目的:確定、判断、不安解消、完了
  • 必要:明快さ、安心感、摩擦削減、迷いの排除
流入から商品接触量と購入率で構成される売上モデルと接触量低下の影響図

これを踏まえると、探索UXで増やすべきものは「出会い、文脈、比較、刺激」となり、購入UXで減らすべきものは「不安、手間、迷い、離脱要因」となる。

しかし、単純化して「探索=情報過多が正義」とまで言うのは違う。あくまで、「探索に必要な情報や分岐が重要」ということだ。

これは正確には「無駄」ではなく「探索コストとしての投資」、あるいは「ノイズ」ではなく「選択肢生成装置」と言える。意味のある冗長性の設計が大切なのだ。

たとえば、わかりやすい例として楽天市場がある。

これは確かに情報量型でUIが特段優れているわけではない。しかし、破綻しているわけでもない。「整合性の獲れた乱雑さ」がデザインされているのだ。

また、ここはブランド力、ポイント経済圏など別要因が強く、単に情報量の多さだけで真似しても成り立たない。似た設計が他で機能するかどうかをシステムだけで判定するのは禁物。

こういったものはうわべだけの参考じゃなく、本質・・・・・・「情報量=正解」ではなく「探索余地を残す設計」を見抜くことが重要だ。

探索UXまで整えすぎたことの副作用

ここまでを整理して、結局何が問題で、どうしてこうなったかをまとめてみる。

現象を再構成すると、今回行ったUX改善とは「購入モード最適化」というものだった。これを探索モードにも同じく適用した結果、諸問題が発生してしまった。

  • 探索体験が痩せる(出会い減少)
  • 商品接触量が減る
  • 購入候補が生成されない
    • →売上低下

快適性は上がったが購買候補の生成量が減った・・・・・・つまり、これは「入口で死んでいる」構造だ。

では、いっけん良案に見える数々の施策がどういう副作用を生んでいるかを考察してみよう。

まずはデザインのシンプル化。見やすさは増した。しかし、商品の世界観や広がり、比較のきっかけが痩せた可能性がある。探索予知の削減が、同時に魅力を削った。

次はバナーの削減。ノイズは減った。しかし、偶発的接触や衝動的発見も減ってしまったのではないか。特に広告商品のクリック減少はこの仮説と整合する。

そして導線の統一。分かりやすさは増した。しかし、「見て回る」「気になる」「つい寄る」という回遊の余白を失ったのではないか。

ここで発生した構造を分析するとこうなる。

  • 満足度上昇:体験が整った
  • 離脱率減少:不快なノイズが減った
  • 売上低下:そもそも欲しいと思う対象が生まれにくくなった

結局、このECで削られたのはノイズだけではなく、発見のきっかけでもあった。

施策は正しい。しかしそれはある1つの場合においてであり、万能解ではなかったのだ。

UX改善前後で探索要素が削減され回遊が減少した構造比較図

探索UXと購入UXは分けて設計する

ここまでで原因はわかってきた。となると次は「じゃあどうするのか?」という実務的な視点だ。

まず、解決策は「シンプルに戻す」「情報を増やす」といった単純な振れ戻しではない。その場合、改善前に戻ってしまうだけで、良い状況ではないだろう。

必要なのは、探索と購入の役割分担を明確にした設計だ。

では前述した問題点に鑑み、最適な設計に必要な原則をまとめてみよう。

  • 1:探索導線は発見を生むようにする
  • 2:購入導線は決断を妨げない形にする
  • 3:探索と購入の接続を生み出す

1は特集、レコメンド、関連商品、コーデ提案、季節文脈、ランキング、限定感や比較軸などで拡充していく。ここが意味のある余白であり、良い寄り道となる。

2はカート導線の明快化、決済の簡略化、送料、返品、サイズ情報の安心提示、CTAの明確化などが当たる。ここが弱いと満足はされても売上が伸びないという結果を招く。

そして3、ここが非常に重要だ。気になる商品を保存できる、比較できる、後で戻れる、関連提案から商品詳細に違和感なく入れる、商品詳細で迷いを解消できる・・・・・・こういった部分を設計していく。

既存の推論の中では「分けて考えればいい」という結論が導かれる。しかし、ここで分断が発生してしまうとそれぞれが独立してしまい、結局改善には繋がらない。

ECは商品を見て、そして買うまでがUXだ。ラインナップの陳列と購入が分かれていては成り立たない。商品とレジが別店舗な店などあるだろうか?

だからこそ「探索→購入の転換点」をどう作るかが勝負になる。

ではどういったUIにしていくのか。探索と購入については割愛し、接続部分を3つ考える。

  • 1:お気に入り
  • 2:比較
  • 3:閲覧履歴

1はUIとして、ハートボタンや保存リストなどが適切だろう。これは検討の持続を促す。探索は手に取り、そして迷うことに意味がある。その手に持つ感覚の外部化、それがお気に入り機能だ。

2は意思決定の促進。人は比較しないと決められない。だからこそ似た商品を並列に表示する。また、代替や上位を提示することにより、レコメンドの質的変化を再現することも可能だ。

3は1と同じく、迷うことを補助するシステム。UI的には「最近見た商品」など。探索は一方通行ではなく、往復であり、遷移が前提である以上、こういった機能は必須だ。

探索から購入へ接続されるUX設計モデルを示したフロー図

つまり、接続設計というのは「移行させるUI」のことだ。UIそのものの良し悪しではなく、どのフェーズにどの性質のものを置くかが重要となる。

これがなぜ上手く行かないのか、スルーされるのかというと、KPIの干渉が原因だ。

というのも、探索と購入はKPIが異なる。そして、片方を最適化するともう片方が崩れてしまう。だから社内では分断されやすく、つまり「分かっていても設計できない領域」なのだ。

だからこそ外部の視点でフラットに診断してもらうのが安定だったりする。

実務ではどう検証するか

次に、実装と検証、KPIの設定や考え方を述べていく。理想論のままでは役に立たず、実務で使えないと意味がない。

まず、KPIは単一にするのではなく、目的ごとに分けて考える。仮に「売上を20%伸ばす」とした場合、しかしそれがなんの要因でどう改善したのかは大雑把すぎてわからず、役に立たない。

ということでKPIを2つに分ける。

探索側KPI
  • 商品詳細閲覧数
  • セッション内閲覧商品数
  • 一覧→詳細遷移率
  • レコメンドクリック率
  • 回遊深度
  • お気に入り追加率
購入側KPI
  • カート投入率
  • カート→決済遷移率
  • CVR
  • 決済完了率
  • 離脱率

これを踏まえて、仮説の立て方も整理する。

たとえば、セッション内の閲覧商品数が少ない場合。探索導線で情報量が足りていない可能性があるため、一覧やトップでの推薦要素を増減させてみる。

あるいは、カートの投入率が低い場合。探索から購入への接続が弱いかもしれないので、比較やレコメンド、お気に入りだけで終えないような導線を改善してみる。

また、特に問題なく購入もされている場合。現状維持ではなく(商品部分などのコアはそのまま)、入口だけ、導線だけ、といったような一部の変数だけを調整してみる。

さて、今回だとABテストは4象限で考えられる。しかし、実際は全部回すより、探索から着手したほうが分かりやすい。なぜなら、現状の問題点が探索側にあるからだ。

より正確に言うと、ボトルネックが探索側にある可能性が高く、購入側は限界効用が低い領域に入りやすいため、切り分けて検証するという形になる。

  • 1:探索情報少 × 購入情報少(現状)
  • 2:探索情報多 × 購入情報少
  • 3:探索情報中 × 購入情報少

こういった流れで探索側の最適点を見ていく。

重要なのは、サイト全体の情報量ではなく、どのフェーズに何をどれだけ置くかだ。検証はその不足部分や過剰部分を判定するだけに過ぎない。

接触量とCVRの状態から改善対象を判断するUX検証フロー図

UXは整えるだけでなく、行動を生み出す構造を設計する

今回の問題は、UX改善どうこうではなく、改善対象の取り違いが本質だった。

こういった案件はなにもアパレルECだけに限ったものではない。他にもいくらだってケースは適応できる。

  • 1:コスメEC
  • 2:家具、インテリア
  • 3:コンテンツ配信、サブスク
  • 4:求人、不動産

これらは比較や発見を伴う商材だ。情報を整理しすぎると魅力が薄くなり、なんとなく見る人というのがLTVに大きく影響する界隈。

つまり、今回のはアパレルの特殊論ではなく、行動モード設計論という普遍的なものなのだ。

探索と購入は異なり、それぞれに合った設計が必要。さらに重要なのは、その切り替えと接続そのもの。異なるレイヤーそれぞれだけを改善、最適化して結果が伴わないのは、UIという表層だけ見てUX全体を見ていない場合が多い。

快適さだけで売上は作れない。

ECには探索と購入という異なる行動があり、両者を同じ思想で整えると発見が失われる。必要なのは、分離と接続を前提にした設計と検証だ。

UX改善は見た目を整えることではなく、事業成果につながる行動構造を設計すること。

だからこそ、満足度と売上がズレたときは、UIではなく体験の役割分担から見直す必要があるのだ。


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