情報設計の違和感。サービス自体は良いのに、プロダクトの価値を発揮できていないため思うような成果が出ないという状況は珍しくない。
ここで問題になるのは、原因を誤認して「UX改善っぽいUI改善を行い、結果が変わらない」という徒労だ。本来やるべきは「情報の意味付けの再配置」なのだが、そこまで至らないことが多い。
今回のケーススタディは、そういった「勘違いしたオンボーディング改善」について考えていくものになる。本当に意義のある施策、それはなにか。
まず、一般的な離脱率対策としてはフォーム改善が出てくる。
- 離脱する→フォームが長い→分割する
- CVR文脈改善
- 使いやすさの改善(≒UI調整)
これらは結局、問題をUIの摩擦としてしか見ていないから起こることだ。そのため、多くの場合あまり効果が出ない。
よくある誤解として、「入力項目が多いから離脱している」というものがある。これは間違いではないが十分ではない。同じ項目数でも離脱しないサービスは存在する。問題は量ではなく「タイミングと意味」だ。
あるいは、「フォームを短くすればいい」というものもある。これも間違いではないが、条件によっては成り立たない。では、データ収集量を削減したくない場合はどうすればいいのか?
結局のところ、これは「設計の順序」の問題だ。
以下、これについて実務的な側面で思考をまとめていく。簡易的な対策ではなく、本質的な対処を求めている人の役に立てれば幸いだ。

今回の案件について
まずは、対象の案件について共有する。
離脱の多い初回オンボーディングをデータ収集量は維持したまま改善する、というもの。状況としてはこんな感じ。
- 扱うのはBtoCアプリ(習慣管理系)
- 直近の分析で、初回起動〜個人情報入力の間で40%が離脱していることが判明
- プロダクト側の要求として、年齢、性別、メールアドレス、目的、生活習慣の5項目は必須で取得したい
- KPIは継続率7日後に+20%
- ユーザーは自分の生活を改善したいが三日坊主に悩む層
- レビューデータでは「質問が多い」「心理的にしんどい」「登録が長い」が不満
- しかし、登録後の使い心地の満足度は高い→初回突破さえすれば強いサービス
これをベースに、思考プロセスの再現性提示を行っていく。単純な問題解決・・・・・・「こう改善しました」ではなく、どう分解し、どう判断し、どこでトレードオフを取ったかをメインに記述する。
何が制約か?
これはただのUX改善ではない。各種制約が付随するからだ。いわばUX改善とビジネスの衝突案件でもある。
- 必須5項目は変更不可
- KPIは7日後継続率
- 初回離脱40%
まずはここで可変可能性のあるもの(いじれるもの)と設計で解決すべきものを分離する。ここを見逃すと「やれない施策のゴリ押し」が発生するからだ。
一般論として最も単純なのは「そもそも5項目の取得をやめれば?」というものだ。確かに、それがネックなのだとしたらやめればいい。しかし、実際そうはいかない。譲歩できない場合がある。
今回で言えば「5項目の入力は必須」という部分。この取得目的はプロダクト側の合理性に由来する。
- 習慣管理アプリはパーソナライズ前提
- 年齢、生活習慣がないと適切な提案ができない
- →データはUXのために必要
また、初回取得を重視しているのにも理由がある。なぜ後回しではダメなのか。それは、以下が理由だと考えられる。
- 初期体験の精度が下がる
- 不適切な提案で離脱する可能性がある
- 分析データが欠損する(プロダクト改善に影響)
後期取得は理論上可能だ。しかし初期体験の質が下がり、それが継続率に影響する。つまりトレードオフになる。いわばこれは短期UXと長期UXの問題だ。
制約条件とその理由をまとめるとこうなる。
- 1:なぜデータが必要か
- パーソナライズの質のため
- 2:なぜ初回で獲得したいのか
- 初期体験の精度のため
- 3:発生する問題はなにか
- 負荷によるユーザー離脱
「後で取得すればいいのでは」のような直感的な解決策は間違いではない。しかしそれが成り立たない理由が存在するから問題は複雑化する。そのケースが今回だ。
つまりこの制約は恣意ではなく、機能要件として必然・・・・・・プロダクト都合とユーザー都合の対立だ。「会社の都合」ではなく「体験の質のため」となる。ここを踏まえたうえで処理していく。
離脱の原因を分解する
では前提条件を把握したところで、次は内訳を分解していく。何が原因で離脱しているのかを探るフェーズだ。
ただ、こういった場合に「完璧な答え」を見つけるという姿勢は危ない。実務では割とカオスな事が多く、数学の方程式のようにきれいな因果を最初から想定すると、そうではない現場(それが大半なのだが)で戸惑う。
まず、レビューと仕様からわかる現在の問題点は「入力が多い(長い)」というものだ。ならば、解決策は入力量を少なくする、あるいが短くするのが適切な対処に見える。
しかし、これはかなり大雑把な理解で、それが上手く行かない条件下にあるということは事前に述べた。となるとやるべきは、原因をもっと具体的に考えることになる。
離脱の重心は以下4つで考えられる。
- 入力量(物理)
- 意味不明(認知)
- 不信(心理)
- 動機不足(価値未認知)
このままだと抽象的なので、それぞれ粒度を上げて考えていく。
まずは入力量。これは物理的な負荷であり、項目数や手間、所要時間の不透明さがユーザーを苦しめている。つまり、長いのではなく「終わりが見えない」ことがストレスになっているのではないか。
次は意味不明さ。これはプロダクト側の一方通行なやり方につきあわされ、理解コストが発生する。そうなると作業ではなく、億劫な判断に変わる。自発的行動が妨げられる。
そして不信。これはそもそも、知らない企業やアプリに個人情報を好んで登録する人がいるだろうかという話。入力したくない、という当たり前の感情がそこには存在する。
最後に動機不足。これを入力することで自分になんのリターンがあるのか、ということ。ここを提供できないならそれはやはり、プロダクト側の一方通行だ。
これらを総合して言えるのは、ひとつひとつは負荷が軽くとも、同一タイミングで行われると一気にしんどくなる、ということだ。
- 序盤→動機不足が支配的(いまじゃないとダメなの?)
- 中盤→物理+認知負荷が蓄積(まだあるの?)
- 終盤→心理負荷が顕在化(もういいよ・・・・・・)
だからこれは「負荷があるから離脱する」はそうなのだが、より厳密に言うと「価値未認知の状態で複数の負荷が同時発生していること」が問題だと言える。

問題の再定義を行う
前述した問題点を踏まえると、離脱トリガー(離脱に変換される瞬間)を言語化することができる。
- 物理負荷→「まだ続くのか」で離脱
- 認知負荷→「なんで必要?」で離脱
- 心理負荷→「入れたくない」で離脱
- 動機不足→「今じゃなくていい」で離脱
総括して言えるのは「ユーザーが価値を感じていない段階で負荷が発生している」ということだ。
結局のところ、これは入力内容とか負荷そのものが問題だということではなく、順序の問題である可能性が高い。いわば、価値提供前に対価を要求しているというズレが不和を生んでいる。

ユーザー行動の強制は、量ではなくタイミングが重要だ。ユーザーは価値を理解しているならば入力するし、じゃないなら短くても入力しない。
そもそもな話、ユーザーは情報を登録したくてアプリを使うわけではない。習慣を改善したいという意思があり、そのために使うはずだ。
もちろん、その前提があるからこそ入力は行われるのではないか、という反論もあるだろう。しかしこれは条件がある。価値が明確で、入力コストが低いということだ。今回はどちらも満たしていない。
入力というのは時間、思考、個人情報リスクという多数のコストを同時に支払っている。だからこそ簡単には行かない。ここを動かせるのはフォーム短縮とかのUIではなく、目的と手段の整合性設計なのだ。
大前提として、価値提示前にコストを要求してはいけない。
ゆえに離脱率の低いサービスは、まず最初に使わせる傾向が強い。そして愛着や好印象を持たれた段階でプロダクトの要求を通す。それがうまくいくのは、ユーザーが価値を感じている・・・・・・事前に価値を提供できているからだ。
ということで以降は解決の方向性を構造そのものと捉え、進めていくとする。
プロダクト特性の特定
では、一見遠回りに見えるこの解決策がなぜ妥当なのかを考えていく。
根拠になるのは「初回突破後は満足度が高い」というデータだ。ここから、プロダクトの特性を解釈していこう。
まず、価値の高さが認められているのに離脱率が高いというのはまったくおかしくない。ここにあるのは単なる伝達経路の機能不全だ。伝わっていない。
当然ながら習慣アプリというのは使わなければ価値を理解しにくい。説明じゃ足りず、実際に使うことで初めて価値を知覚する。料金や機能では判断が難しいジャンルだ。
- 情報理解型(料金、機能で判断)
- 体験理解型(使って初めて理解)
なぜ習慣アプリは体験依存型なのか。それは、理解の媒体そのものが体験だからだ。習慣管理の価値は抽象的であり、体験しないと「自分ごと化」できない。
となると、新たな制約が生まれる。それは、説明先行が機能しないということだ。文面改善、理解させるコピー考案等じゃ本質的な改善には繋がらない。
だからフォームを短くするとか意図を伝えるということよりも、まず価値を提供するということが重要視される。価値を先に出すには、使わせる以外の選択肢がないのだ。
そのため、今回の改善の方法選択は「教科書通りにやるとこうなるから」ではなく「そうするのが最も合理的だから」というのが理由になる。
プロダクト特性の関係上、体験優先じゃないと成り立たないのだ。
どう設計するか?
ここまでを踏まえるといくつかの原則が導き出される。
- 1:価値提示を先に、入力を後にする
- 2:入力をコストではなく投資に変える
- 3:強制をやめて選択性にする
これらは前述した動機不足、認知負荷、心理負荷において対応関係が明確だ。ただし、理想論や万能論ではなく、通用する条件がある。
- 体験依存型プロダクトであること
- 入力によって明確な価値変化があること
- 選択の自由がUXを壊さない範囲であること
また、これらは言うのは簡単だがかなり明確な改変が必要になる。たとえば1ならフローの再構築、2なら提示方法、3なら機能制限と強制入力の撤廃など、変更はかなり多い。
そして原則に従うと、初期データ不足や入力のみ完了などと言った想定される問題もある。トレードオフだ。しかし、やる価値のあるトレードオフではある。
では、原則を考慮したUXの骨格を考えてみよう。
まず、3つのルールをすべて守るには時間分解しか無い。だから問題は「何を聞くか」ではなく、「いつ聞くか」だ。
- 初期:価値理解の最短達成
- 中期:最小コストでのパーソナライズ達成
- 後期:UXの精度最大化
結果として、聞いている内容の総量は変わっていない。変化したのはタイミングだ。これまでは初期にすべてが積み重なっていた。だから不満が多かった。これを分散させるのが改善内容となる。
入力は重要度ではなく心理状態で配置するのが鉄則だ。たとえば任意情報は改善欲求が生まれた後に置く。初手の任意情報はほぼ間違いなくスルーされるからだ。
情報の優先順位を整理すると以下になる。
- 必須(サービス成立に必要)
- 準必須(精度向上に寄与)
- 任意(体験強化)
これをそのままフェーズに当てはめるのではなく、必須ですら中期に置くぐらいがちょうどいい。初期は本当に最低限の入力でよく、まずは体験させることを最重要と考える。

改めていうが、これが成立するのは「初回突破後は満足度が高い」というデータを前提にしているからだ。おしなべてすべての状況で通用するわけじゃないことを忘れないでほしい。
プロダクトそのものの質は良い、という担保がないならば、小手先の設計や改善は意味をなさないのだ。
ちなみに、他にも解決策はあったが今回はこの方策を選択した。以下に、どういった評価軸で切り分け、最終案を選択したかの内容を述べる。
まず、評価軸は3つだ。
- KPI適合性(継続率に寄与するか)
- UX負荷(初期摩擦を増やさないか)
- データ要件適合(必須情報を回収できるか)
それを踏まえて、各種案の適合条件と不適理由をまとめると以下になる。
- 入力削減
-
- 適する条件:データが重要でない場合
- 不採用理由:今回は必須要件のため不可
- 正しいが使えない
- フォーム最適化
-
- 適する条件:摩擦が主因の場合
- 不採用理由:本件は順序問題なので効果が限定的
- 効くが本質ではない
- 入力後回し(競合案)
-
- 適する条件:初期体験優先の場合
- 検討ポイント:データ欠損リスク、パーソナライズ低下
- 未回収リスクの存在
- 強制設計
-
- 適する条件:強いネットワーク効果がある場合
- 不採用理由:心理負荷が高くブランド毀損
- やれば効くがやらない
今回の施策、主案はすべてを完璧に満たすものではない。たとえばデータ回収部分には多少の問題を抱えていて、入力未達のリスクもある。
しかしこれはトレードオフだ。完全解は存在しない以上、消去法ではなく合理選択として最適解を選ぶ必要がある。
UX改善は「何が正しいか」ではなく、「どの条件でどれを選ぶか」の作業だ。だからこそ最初にやるべきは制約の確認に他ならない。
具体的な施策をUIレベルに落とす
では次に、実務としての処理を考えていく。
まず重要なのが、UIは目的ではないということだ。前提として「時間軸で配置する」という構造の目的があり、UIはそれを表現する手段でしか無い。
全体としてやっていくのは以下3つ。
- 1:入力の分割(物理不可の分散)
- 2:メリット提示(入力意味の変換)
- 3:所要時間の可視化(不確実性の削減)
1は一括入力を細かいフェーズに分解する。必須や任意で配置を変えるなどでもいい。これは単に分割すると言うより、再配置だ。

2は入力による差分、何が変わるかを明示する。このリターンが即時であることにより、入力することをコストから投資へと変貌させる。

3は残りステップを表示したり、予想所要時間を目安としてでも提示する。認知不可の対策だ。終わりが見えるから継続できる。

これらは、単にUIそのものが優れているから良い悪い、ということではない。何の意味付けがあり、どういう効用があるから機能するかを前提に考えた結果だ。
カードだから良いとかポップアップだから悪いとかではない。条件と方向性を考慮するとこういうUIになるという必然。UIはおしゃれではない。UXに基づく設計なのだ。

KPI設計を階層で行う
最後に、ここまでの施策などがどうKPIにつながるかを考えていく。
まず、提示されたのは「KPIは継続率7日後に+20%」というものだった。しかしこれは単体で存在しているわけではなく、因果鎖として連結している。
- 初回体験成功率上昇
- 入力完了率上昇
- 翌日継続率上昇
- 7日後継続率上昇
- 翌日継続率上昇
- 入力完了率上昇
つまり、前段が後段の前提条件になる関係性だ。だからこそそれだけを目標とした改善ではなく、根本的な設計から考えることを今回は行った。
では、それぞれの役割は何を測っているのか、まとめると以下になる。
- 初回体験成功率
-
- 価値理解の達成度
- 初期フェーズの成否を測る
- 「使ってみて意味が分かったか」
- 入力完了率
-
- 投資化の成功度
- 「入力をやらされていないか」を確認
- 中期フェーズの設計検証
- 翌日継続率
-
- 短期リテンション
- 初回体験が次の行動に繋がったか
- 価値を感じたかの実質評価
- 7日後継続率
-
- 最終KPI
- プロダクト価値の定着
- ビジネス成果の指標
KPIはボトルネックを特定するのにも役に立つ。たとえば入力率が低いなら投資化が失敗しているし、あるいは継続率が低いなら価値が不足している。
となると、KPIは単独では評価しないのが重要だ。セグメント別に見たりすることで誤認や悪化を防ぐことができる。
こういった目線でKPIを設定すると、測定からの改善ループが成立し、UX改善がビジネス成果に接続されるのだ。
まとめ
結局のところ、今回の案件の本質は問題の誤認だった。
入力が思ったように行われない原因はなにか、それは量でも質でもなく、時間軸という観点の「順序」。問題は量ではなく、価値とコストの提示の仕方だった。
取り扱ったのはオンボーディング問題だが、この思考や施策は他に広げることも可能だ。たとえば課金導線や機能解放なども同様の問題を抱えている。
なぜ表層上のUIから手を付けず、それを最後に行うかと言えば、問題はたいてい構造にあるからだ。UIは結果でしかなく、そこの改善だけですべてがうまくいくことは少ない。
UXも同様で、画面の改善を指すのではなく、本領は構造そのものの改善だ。だからこそプロダクトの設計や、都合なども考慮する必要がある。
UXは画面ではなく順序で決まる。
そして、ユーザーは操作ではなく流れに反応する。
制約があるから上手く行かないのではなく、それを考慮し、トレードオフ前提で構築するのが、本質的なUX改善だ。
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