面白いデッキ構築型ローグライクはないか。
ダイスを用いた中毒性の高い作品はないか。
戦術が重要で、運ゲーに偏りすぎないバランスのしっかりしたゲームはないか。
こんな思いがずっとあった。これまで数々のローグライクに脳を破壊され、より面白いゲームはないかとゾンビのように彷徨い、探してきた。
その過程で様々な出会いがあった。ただ、どれも面白い・・・・・・のだが、物足りない。結局『Slay the Spire』でいいや、というような気分になってしまうことが多々あった。
そんな中、ひとつのゲームに出会う。一見さんお断りの非常に買いにくい雰囲気だが、何か不思議な魅力を放つ作品に。
それが『Slice & Dice』(以下SD)だ。
本作は、いわゆる「隠れた名作」として語られることがある。
評価自体は高く、触れた人の満足度も明確に高い。それにもかかわらず、日本ではほとんど話題に上がらない。理由は単純で、情報があまり存在しないからだ。
- 日本語非対応
- 国内レビューがあまり多くない
- 動画や解説も限られていてプレイ感が事前に掴めない
結果として何が起きるかというと、「面白くなさそうだから避ける」ではなく、「判断材料がないから触れない」という状態になる。実際、私も買う前には迷った。わからないと買えない、そんな気持ちがあった。
ストアページを見ても、雰囲気は伝わるものの「結局どういうゲームなのか」「何が面白いのか」は読み取りにくい。ダイスを使うんだな、程度。
興味はあるが、確信が持てない。だから後回しになる。SDはそういう微妙な位置にある作品だ。

結論を言う。数あるデッキ構築型ローグライクの中でも、本作はトップクラスに面白い。以下のゲームが好きな人はほぼ間違いなくハマるだろう。
- Slay the Spire
- Balatro
- Cobalt Core
- Monster Train
- カルドアンシェル
- Dice A Million
運ゲー要素はあるが、運を引き寄せることができる。大切なのは一手ごとの判断と戦略、戦術。毎回のランで変数が発生する・・・・・・。
こういったものが好きならば確実にハマるはずだ。わかりやすい派手さはないが、ゲームとしての面白さ、いぶし銀が本作にはある。
では、何が面白いのか?
本記事ではこういった部分を踏まえ、紹介したい。購入を後押しする宣伝として、どういうゲームなのかを解説していく。全体の流れや仕組みに注目し「どんなゲームで、どこに面白さがあるのか」を具体的に提示する。
ひとりでも多くのプレイヤーがSDに触れてくれたらと心から願う。この文章があなたの購入のきっかけになれば幸いだ。
どういうゲームなのか?
SDは、ジョブごとに決まったダイスを振り、リロールを使いながら20連戦の突破を目指す戦術ゲームだ。
本作では、キャラクターの行動がダイスの面で決まっている。攻撃する、回復する、防御する、魔法を使う・・・・・・そういったものが各キャラクターのダイスに割り当てられている。
そしてこのセッティングは完全にランダムであり、最初5人の組み合わせ(ダイスの出目)は、固定パターンからランダムに割り振られる。
たとえば戦士、踊り子、僧侶、遊び人、騎士のような組み合わせになる場合もあれば、逆に魔法使いや僧侶などが多いパターンもある。ここは完全に運だ。
しかしそれが理不尽な配置になることはなく、おしなべて「あるものでどうにかする」ということが可能な配牌。こういったスタートから、何にジョブチェンジするか、何のアーティファクトをつけるかを考えることになる。
つまり、この手のゲームで一般的な「デッキ」に当たるのが「ダイス」そのものであり、面を変化させることがデッキ構築になる。ジョブも重要だが、結局はダイスの面が本質だ。
では、本作の各要素がどういう扱いになるのかを以下にまとめる。
- ダイス:デッキ
-
- 行動の選択肢、すでにあるものに対しアーティファクトで消したり追加が可能
- 役割に合わせて調整することで強敵を打破する
- リロール:意思決定
-
- 1ターン2回まで振り直しが可能
- 敵の行動に合わせ、最適解を得るための挑戦
- 連戦:リソース管理
-
- 戦闘終了後に全回復、死んでいる場合は半分のHPで蘇生
- 眼前の戦闘そのものだけを考えた「死なないもん勝ち」の仕組み

向いている人、向いてない人
では、本作はどういう人に向いているのだろうか。前述したゲームに近しい体験を持っているわけだが、ここで改めて向き不向きを列挙する。
- 向いている人
- 一手ごとの最適化が好き
- 思考と結果の一致に快感を覚える
- 戦略を組み立てる過程そのものが楽しい
本作の面白さのキモは、理想の構成を作るというより、「与えられた条件でどう戦うか」を考える部分にある。
そのため、最適解のお祈りではなく、その場の状況に応じて最も筋の良い選択を積み重ねることに価値を感じられるかどうかが重要だ。
「ここで自傷無効のアーティファクトが来たらいいな」ぐらいの気分だと成立しやすく、「来なかったから負けた」という姿勢だとしんどい。何が来るか、何になるかは運だからだ。
総じて「なぜこの結果になったか」を自分の判断として納得できる構造になっているため、再現性のある思考を楽しめる・・・・・・そこを面白いと思えるかどうかが差になる。
- 向いていない人
- 運要素そのものを嫌う
- 思い通りにいかない状況に強いストレスを感じる
- 派手さや演出を重視する
まず、本作は運ゲーだ。「あの出目が出なかった」というのは普通にある。1/6の確率に泣かされるのは全然珍しくない。
しかし、徹底的に運ゲーというわけではなく、アーティファクトやリロールといったシステムで運をいじることができる。これが本作のコアだ。
運を排除するのではなく、前提として扱い、調整する。だがもちろん、それでも運は関与する。ここに不快感がある場合は適合しない。
また、見た目や演出は最小限で、体験の中心はあくまで思考にある。けれど、地味とつまらないは一致しない。エフェクトやSEなどによる気持ちよさは確かに存在する。
以上、これらが大雑把に判定した場合のSD適正チェックだ。つまるところ「考えることが好きかどうか」「決まりきっていない運命に抗えるか」が重要なポイントになる。
何が面白いのか?
このゲームの面白さは、一言で言えば「最適解と現実解にどう折り合いをつけるか」という選択だ。
本作は決して「ダイスを振るだけの運ゲー」ではない。出た選択肢の中で、どこまで欲張るかを決めるゲームだ。この出目で妥協するのか、リスクを取ってリロールするのか。
常に「最適解を追うか、現実解で止めるか」という判断が問われる。ここに面白さがある。
各ターン、ダイスを振ることでいくつかの行動候補が提示される。その中には、「十分に機能する結果」と「より理想的な結果」が混在している。
たとえば、攻撃としては成立している面が出ていて、このまま使えば安全に進めることはできる。一方で、もう一段強い面が存在し、それを引ければ状況はさらに良くなる。
ここで判断が発生する。「ここで止めるか」「もう一度回すか」だ。

各ターン2回まで許されるリロールを行えば、現状より良い結果に到達するかもしれない。しかし同時に、今持っている安定した結果を失うリスクも発生する。
つまり、期待値とリスクのトレードオフをその場で引き受けることになるのだ。
この判断は常に合理的に行われるわけではない。人間は一般に、「下振れを避ける」よりも「上振れを取りにいく」傾向を持つ。十分な結果が出ているにもかかわらず、より良い結果を求めてしまう。
その結果として起きるのが、「回さなければよかった」という反省だ。
このゲームは、その反省が明確な因果を持って返ってくる構造になっている。運が悪かった、ではなく、「今の判断がリスクを取った結果だ」と理解できる。
したがって、このゲームの思考は単純だ。最適解を狙い続けるのか、それとも現実的なラインで確定させるのか・・・・・・そしてその選択の責任を自分で引き受けること。
負けには必ず希望的観測がある。この、反省を自然と促せる設計も面白さのひとつだ。
では以降のウォークスルー中、この判断が実際のプレイでどのように現れるかを具体的に見ていこう。
ゲームの流れを紹介
ここからはプレイの流れを1戦分だけ取り出して見ていく。細かい記録ではなく「どういうゲームなのか」がわかるよう、判断が発生する分岐点だけを扱う。
はじめに、ゲームスタートと同時に編成の方針を決定する。誰を使うかではなく、あくまで方向性しか指定できない。

標準や攻撃的など、選択した方向性によって配置されるキャラが変わる。たとえば攻撃的なら持久戦に乏しい、防御の苦手なメンツで構成される。
決まったらすぐ戦闘開始。
まずは敵の行動がダイスで決定される。誰を狙うか、どの程度のダメージなのか・・・・・・すべての情報が開示され、それからこちらのターンがやってくる(攻撃目標などはいつでも再確認可能)。

自分のターンは大きく2つある。行動決定のダイスロールと、出目を誰にどう割り振るかの実践フェーズだ。
それぞれのキャラクターは固有のダイスを持っている。
- 2〜3ダメージの攻撃
- 防御やシールドを張る
- 回復を行う
- 何も起きないハズレ
2回のリロール中でこれらを決定する。たとえばシールドは◯◯に任せたほうがいいから、他のダイスのシールドはリロールしよう、などのように(もちろん必ずしもうまくいくわけではないが)。

このゲームは「成立している結果」を捨てて、「想像可能な期待値」を取りにいくかどうかの選択を常に要求する。つまり安定と期待値のトレードオフだ。
たとえば、攻撃役のダイスで「2ダメージ」が出たとする。これは十分機能するが最大ではない。このまま使えば確実に敵を削れるが、「3ダメージ」も存在するためリロールしたくなる。そして、ハズレを引いたりもする。
こういった取捨選択を繰り返し、敵を殲滅、あるいは条件を満たして逃走させる(経験値などの概念がないので勝てればそれでいい)。
戦闘後、ジョブやアーティファクトを入手できる。これがいわゆるデッキ構築要素、ラン改善アイテムだ。
たとえばこちらのジョブ。彼は多様な攻撃手段を持つが、そのぶんブレる。しかし元ジョブよりも火力やHPは上がるため、とりあえずでも選択の価値は大きい。

一方、こちらのアーティファクトは、左の面をマナ(ダイス中、見えるたび効果発動)にし、中央を空白にする効果を持つ。すでに左が空っぽで、真ん中に厄介なスキルがある場合にこれを使うと、ダイスを良い感じに整えられる。

戦闘終了後にはこういったランを改善する要素が必ず生まれる。そのため、初期時点で使いにくいジョブでも化ける可能性は大いにある。実際、バランスが滅茶苦茶だと感じたことはない。
以降はこれを20回繰り返し、ラスボスを倒せばクリア。やっていること自体はシンプルだ。
- ダイスを振る
- リロールするか決める
- 出た結果で最善を尽くす
ただし、その中で毎回いろいろな判断が発生する。
- 妥協するか
- 欲張るか
- 安定を取るか
- 可能性に賭けるか
このゲームは「好きなビルドを作る」よりも「提示された選択肢でどう最適化するか」が中心だ。つまり、不確定な未来に対して、今のリスクをどう取るかの設計となっている。
あるものでどうにかする・・・・・・こういった流れが徹底して組まれたゲーム内容と言えるだろう。
これは運ゲーなのか?
本作はダイスを使う以上、どうしても「運ゲー」に見えるかもしれない。ただ、実際にプレイすると、必ずしも運ゲーではないことがわかる。
確かに、ファンブルが続いたことによって負けるということはある。しかしこれは唐突に起こるものではなく、想定内の事故のようなものだ。
たとえばダイスの出目が1つしかなく、そしてリロールを繰り返して負けたとしたら、これは「対処できる問題に対処しなかった」だけだ。アーティファクトやジョブチェンジでその可能性を断てばよかっただけ。
本作に想定外の事故は起こりえない。すべてが予期されている。だからこそ、それを考慮して選択することが大切なのだ。
そして、私はその「最悪の事態に対処できる設計」こそが運ゲーではないと言える部分であり、面白い部分でもあると思う。
すべてが運に任されるのなら面白くはない、当然だ。一方でこのゲームにおけるランダム性は、結果そのものではなく選択肢の提示として機能している。
プレイヤーは完全に自由な行動を選べるわけではない。その代わり、提示された選択肢の中でどこまで価値を引き出せるかが問われる。つまりこれは、「選べない中で最大化するゲーム」だ。
ウォークスルーで見た通り、毎ターンの判断は、すでに成立している結果を受け入れるか、さらに良い結果を狙ってリスクを取るか、の繰り返しだ。
ここに「最強の手を選ぶ」という発想はほとんど存在しない。あるのは、「今ある手でどこまで伸ばすか」という問いだけ。
この感覚は、いわゆる手札で戦うゲームとは少し違う。そういった作品はある程度自分の構成や選択をコントロールできるが、本作ではその自由度は限定されている。
むしろ近いのは、「手牌で戦う」感覚だ。

配られたものに対して文句を言うのではなく、その中で最も筋の良い進め方を選ぶ。そして、ときには無理をしてでも上振れを狙うかどうかを判断する。
したがって、「運ゲーではない」というのは、「運が存在しない」という意味ではない。運を前提にしたうえで、その扱い方がゲームの中心にあるという意味だ。
この理解があると、プレイ中のすべての判断に一貫した軸が生まれる。「なぜ失敗したのか」「なぜ上手くいったのか」を、運ではなく選択として捉えられるようになるのだ。
実際、私は敗北したときにまずこう思う。
「あそこで振り直さなければよかった」と。
英語ができなくてもプレイは可能か?
ここまでで気になった人でも、しかし「英語オンリーだとなあ」という感情はあるだろう。この気持ちは大いにわかる。
ただ、これについてはそこまで警戒するほどではないと思う。完全に問題がないわけではないが、ゲーム進行を阻害するレベルではない。
本作における英語の用途は、結局「追加効果」の理解だ。
- 特定条件で効果が発動する
- 別のキャラクターに影響する
- 倒したときに副作用がある
こういう「誰に、何が、どれぐらい発生するか」というものだけ。いくつか紹介しよう。
focus: x2 vs the target of the previous dice this turn
(直前のダイスで対象になった相手に発動。効果量を2倍にする)
pain: I take 2 damege
(2の自傷ダメージ)
cooldown: can only be cast once each turn
(ターン中、1回しか詠唱できない)
そもそも使われている単語自体は難しくない。中学レベルの英語が読めれば意味の推測は可能な範囲。特に、この手のジャンルのゲームをやったことがある人ならなんとなくわかるはずだ。
たとえばfocusなら、つまりは集中攻撃だ。同じ相手を殴ると効果がアップ、あるいはすでにシールドが貼られた味方へは回復量アップなど。よく見る効果なはず。
読解で重要になるのは単語そのものよりも、「誰に何が起きるか」という構造だ。全部読める必要なんてない。
- この効果は敵に向かうのか
- 味方に作用するのか
- 自分自身に返ってくるのか
この関係性さえ把握できれば、細かいニュアンスが分からなくてもプレイに支障は出ない。最初の数プレイで多少引っかかるポイントはあるものの、慣れてしまえば自然に読み飛ばせるレベルに収まるはず。
よって、過剰に警戒する必要はないが、完全に無視できるわけでもない・・・・・・英語UIという壁の実態としては、その中間に位置する程度となる。
まずはプレイしてみてほしい
本作は、評価自体はすでに確立されている一方で、日本語圏では情報があまり流通していない。だからこそ「良作である可能性が高いのに、検討すらされない」という状態にある。
まさしく「隠れた名作」だ。今後、仮に日本語化すれば風向きは変わるのかも知れないが、現状は期待できない。
SDは万人に勧められるタイプのゲームではない。しかし、この記事を見つけて、ここまで読んだ人はおそらく、私に近い嗜好を持っている・・・・・・そんなあなたには刺さるのではないかと思う。
- 一手ごとの判断を積み重ねるゲームが好き
- 与えられた条件で最適化する思考に興味がある
こういった感性があるのならば、SDのプレイ体験は当たりとなる可能性が高い。一生プレイできるようなちゃんとしたゲーム・・・・・・それを探している人に、本作はきっとジャストフィットするはずだ。
さて、プレイのための紹介はすでにした。あとは実際に買ってみて、「運をいじる」という感覚を体験してほしい。
Alea iacta est.
(賽は投げられた)
― Julius Caesar
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